【オーストリア国営放送インタビュー】
2025-05-30
私の事務所があるビルのマネジャーから、オーストリアの国営放送(日本のNHK)が来日するのでインタビューを受けてもらえませんか、との打診がありました。
理由を聞くと、オーストリア大統領が大阪万博での式典のために来日するので、その取材を行うのが主目的ですが、ついでに、世界最古の企業が日本にあるので、その会社である金剛組の取材とシニアで起業して頑張っている社長にも会って、日本のシニアの就業状況についても取材をしたいということでした。
そこで何で私に?と聞いたところ、事務所のある会社のオーナーがオーストリア人で、オーストリア国営放送のディレクターとお友達関係にあるため、そのオーナーが日本でのインタビュー適任者を依頼されたとのこと。
オーストリアでは、私の年齢(72歳)で働いている人は例外的らしく、日本のシニアの就業実態を知りたいようで、会社オーナーのビルに事務所を構えている私に白羽の矢が立ったようです。
当初は、英語でのインタビュー予定だったのですが、スケジュール的に事務所に訪問することが難しくなったとのことで、事務所ビルのマネジャーがインタビューをすることになりました。
そこで日本語でのインタビューになったため、約1時間にわたって気軽にお話をすることができました。事前に聞いていた質問は、
・何故、その年齢でも引退するのではなく、会社を立ち上げてビジネスを続けているのか?
・そのビジネスの社会的、経済的な役割は何か?
・政府はシニアが働き続けることに対してインセンティブを提供しているか?
・オーストリアでは、あなたの年齢で働いているのは例外的です。日本では違うのか?
・働き過ぎを心配したことはないか?
・ヨーロッパでは、日本人は非常に勤勉で規律正しいという固定観念があり、日本語には「過労死」という言葉があることも、このイメージを強めている。
このことについてどう思うか?
・何歳まで働き続ける予定か?
などでしたが、日本人は働き過ぎ?の質問については、日本の1970年代や80年代の高度成長期は残業は当たり前で、栄養ドリンク剤のテレビCMで「あなたは24時間戦えますか? ビジネスマーン、ビジネスマーン、ジャパニーズ ビジネスマーン!」
というキャッチコピーが大流行し「24時間戦える戦士ってカッコイイ!」と多くの人が思ったくらい、私も洗脳されていたことを説明し、インタビュアとカメラマン(共に若い女性でしたが)にこのコピーと歌知っていますか?って聞いたところ、まったく知らないようでした。
そこで、このお二人とオーストリアの国民に向けて、
「ビジネスマーン、ビジネスマーン、ジャパニーズ ビジネスマーン!」の歌を披露したところ、とてもウケていました。
念のため、当時のこのような企業文化は、日本の今では完全にブラック企業として捉えられていて、日本社会も変わってきていることも説明しました。
ところで、オーストリアでは、70歳を超えても働く人は例外的と聞いたため、私もビックリして調べたところ、2023年の日本の就業率は、70~74歳で34.0%、75歳以上で11.4%ですが、EU平均では、70~74歳で4.9%、75歳以上で1.4%と、確かにEU諸国では、高齢者の就業は極めて稀なことがわかりました。
人生100年時代と言われる中、平均寿命と健康寿命の差についても調べたところ、2025年のWHOの発表では、日本の平均寿命は84歳、健康寿命が74歳で約10年の差があり、この10年の差をいかに縮められるかが多くの人の重要なテーマになっているのですが、
オーストリアでは、平均寿命は81歳、健康寿命が65歳でその差はなんと16年もあることがわかりました。独、仏、英、伊も同じようにこの差は16~18年もあるようです。
この違いはどこにあるのかについては、以下のように言われています。
1.欧州では医療水準が高いため、重篤な病気でも長期間生存できるようになっているが、慢性疾患(糖尿病、心疾患、関節疾患など)の場合は、生活の質が低いまま長生きするケースが増えていて、健康寿命とのギャップが拡大しやすくなっている。
2.過度な飲酒・喫煙・高脂肪食・運動不足が中高年層に多く見られ、これらが慢性的な健康障害を早期に引き起こしやすく、不健康期間が長くなっている。
3.公的な介護福祉が充実しているため、重度の障害や病気があっても自宅や施設で長期に生活できる体制が整っていて、「健康ではないが、長生きできる」状況を生みやすく、結果として健康寿命との乖離を生んでいる。
4.欧州では「引退後は余生を静かに過ごす」という文化が強く、60〜65歳での完全引退が一般的で、その結果、生活習慣が急に変化し、活動量が減り、健康を害しやすい傾向がある。
このような状況を鑑みると、この差の大きな要因は日本の健康寿命の高さにあると思います。人は働くことによって、心身が活性化され、仕事を通じて社会とも繋がり、社会の役に立っているという感覚が生活満足感につながって精神的な健康を保ちやすくしていると思われます。
人生を楽しく幸せに生きるためには、何と言っても健康、家庭や社会との繋がり、経済的・時間的な自由は欠かせません。
そのためには、自分が好きで自由度が高い仕事を無理のない範囲で続け 、引退は会社ではなく自分で決められるような環境づくりが平均寿命と健康寿命の差を短くすることにつながるのではないかという私の考えを述べ、是非、オーストリアの国民にも伝えてくださいと申し上げました。
最後にインタビュアの女性が、「私も仕事に対する考え方を考え直してみます」と顔を紅潮させて言っていたのが印象的でした。